1 プロポーズ
「ちょっと静かにしてくれないか!」
 アスターがしまったと思ったときはもう遅かった。
目の前のジェシカの顔は焼けた炭のように見るみるまに怒りで真っ赤に染まっていった。
「待ってくれ、ジェシカ……違うんだ……」
あとの祭りだった。ジェシカはアスターの頬を張り倒すとくるりときびすを返し、もとき
たほうへと戻っていった。
アスターはただ、幽霊のように青ざめていた。
 今日、アスターはジェシカに交際を、それも結婚を前提とした正式な交際を申し込むと
いう決意を胸にやっとの思いで散歩に誘った。緊張のあまり手足は思いどおりに動かずぎ
こちなかった。遠くから見たらまるで出来の悪い案山子が歩いているように見えただろう。
 アスターは落ちかなかった。連中は心配……いや、決して心配してではない、面白がっ
て……そう、面白がってついてきている。
 はじめのうちはとてもいい雰囲気だった。さわやかで心地よい風が吹く湖の周りをふた
りでゆっくりと取りとめのない話をしながら歩いた。アスターも連中を無視することがで
きたし、連中もおとなしくしていた。が、しだいになかなか話を進めないアスターにみん
なはやきもきしはじめた。とてもおせっかいなのだ。とうとう、フィンが口を開いた。
『アスター、日が暮れちゃうわよ』
『だめだめ、アスターには彼なりのやり方があるんだ』
『ドン、でも彼はおとなしすぎるわ、もっとワイルドに攻めなきゃ』
『そうじゃない、これでいいのよ。慎重に進めなきゃ。女の子はロマンチックなのだから』
『ミリー、なに言ってるの。彼女はあんたとはぜんぜんタイプが違うのよ。それにジェシ
カは大人の女性よ、女の子ではないわ。そんなこと言ってるからあんたはいかず後家で終
わったのよ』
『なによ、あんたは大体誰かれかまわず言い寄ってくる相手についていくからこうなった
んでしょ。ちょっとばかりきれいだからって……』
『まあまあ、ふたりともよさないか。アスターの気が散る。』
背の高いドンはふたりの間に入り離そうとした。正確には、その間にジェシカもいたのだ
が。
 はたから見れば、ふたりはちょっとぎこちないただのカップルに見えただろう。だが実
際は、アスターたちは五人でにぎやかに歩いている集団だった。ただその中の三人が誰に
も見えないだけ、アスター以外には。

 

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