「オッホン」そのとき、エメットが控えめにみんなの注意を惹いた。「大奥様がみなさ
まに部屋のほうまできていただきたいとおっしゃっています」
「グレートローズが?」
一行はエメットの後ろからぞろぞろとついていった。
「グレートローズ? はじめて会うわ。なんか緊張するわね」ジェシカがアスターにそっ
とつぶやく。
みんなすっかりグレートローズのことを忘れていた。彼女だって力を持っているのだっ
た。まるで早々と棺桶に入ったような生活をしているもんだからついその存在を忘れてし
まう。
グレートローズはいつもと同じようにベッドの中にいた。そばに大きな姿見が置いてあ
る。ベッドの上は相変わらず散らかっている。ペンやノート、ぼろぼろになった本、巻紙、
乾燥してカチカチになった食べ物の残骸、ねずみの屍骸があっても不思議ではない。
久しぶりに見るグレートローズはさらに年を取り小さくなっていた。ここに閉じこもり
力をいったいなにに使っているのだろう。
エメットはグレートローズが楽に座れるように背中に枕を何個か重ね、見苦しくないよ
うに寝巻きを簡単に整えるとどこかに消えた。
「ローズ。なんだかまた老けちゃったわね」ヴィオラが感心するように言った。
グレートローズはフンと鼻を鳴らすとみんなを見回しジェシカの上で目を細めた。
アスターはジェシカに寄り添うと言った。「ひいおばあちゃん、いや違った。おばあち
ゃん。この人は僕の婚約者のジェシカです」
ジェシカはうわずった声で「初めまして。わたしがアスターの婚約者のジェシカです。
気に入られれば……」
「かしこまった挨拶は結構だよ」グレートローズはにべもなくさえぎった。「話は大体わ
かっている。どうだい? 気はかわらないのかい?」
「それが……」ジェシカはちょっと間を置いた。「まったくかわりません」
「なかなか度胸の座ったお嬢さんのようだね。この一族に入るには覚悟がいる。なんせま
ともではないからね」そう言うとみんなの顔を見回した。
「さっき言ったように、ことのいきさつは大体わかっている。デイジーのことは残念だっ
たね」グレートローズはオークに向かって声をかけた。
グレートローズはこの部屋にいながらいろんなことを把握しているらしい。おそらくエ
メットが関係しているのだろう。アスターの胸のうちを読んだかのようにグレートローズ
は続けた。
「エメットはこの家にずいぶん昔から忠実に仕えてくれている。だけどそれだけではない」
そう言ってそばにある姿見に向かって手を振った。するとそれまで映っていたしなびた老
女の姿が薄れ、先ほどの居間の様子が映し出された。
どうりでグレートローズの老化は加速されているわけだ。
「ローズ! むやみに力を使ってはいけないわ。自分から棺桶に飛び込むつもり!」ヴィ
オラが怒った。
「まだまだ大丈夫だよ」ヴィオラに向かって力なく微笑んだ。
「わたしはずっと祖先のことを調べておった。なぜこんな呪いがかけられているのか。だ
がはっきりとはわからない。だけどひとつわかったことがある。この呪いはブライアとい
う女性からはじまったらしい。この先祖はとても強い力を持っていた。だが、なにが起こ
ったのかがわからない」
ローズは言葉を切るとヴィオラの顔を見つめた。
「わたしたちはこの呪いのせいで散々な目にあってきた。そうだろ? ここいらでこれを
断ち切るべきじゃないかね? そこでわたしは考えたんだ。もしかしたらなんとかなるん
じゃないだろうかって」
「どういうこと?」
「おまえとわたしの力を合わせるのさ」