22 流れ星の願い シーラとシルベスターは星屑村のはずれにある小高い丘の上に座り村を見下ろしていた。 星祭りの劇は大盛況のうちに幕を閉じた。沸き起こった拍手と手を振る人々で会場に渦巻 きが起こるほどだ。ホレイショーは一躍有名人。彼は謙虚にその賛辞を受け止めた。彼は ただの人間であるけれど生まれながらのスターであった。祭りのお芝居は恒例となるだろ う。とても楽しみだ。 フィナーレを飾る流れ星たちのレース、残念ながらシーラは見れなかった。興奮したメ グが産気づいてしまい大急ぎで村につれて帰った。いつも落着いているホレイショーもこ のときばかりはおろおろするばかりだった。ただひたすらメグの手を握り、青い顔をして 額に浮かんだ汗を拭く。妻の呻き声に自分の声を重ね、妻が顔をひきつらせると、自分の 身をひきつらせる。あまりに辛そうなので産婆やシーラが部屋の外で待つようにと勧めた のだが、頑としてメグのそばから離れようとはしなかった。 やがて間もなく元気な女の子がメグのお腹から飛び出すように生まれた。生まれたばか りの赤ん坊をホレイショーは驚いたような顔で見つめていたが、やがて大きな涙が瞳から こぼれ落ちた。その涙はキラキラ光ってとてもきれいだった。 ふたりと赤ちゃんが落着くとシーラは新しい家族を残してひとりで丘の上に来た。ここ はシーラのお気に入りの場所。村が一望に見渡せるし、広い空が色をかえていくようすを 見るのはとても美しい。シーラは赤ちゃんの名付け親になってくれと頼まれた。複雑だ。 はじめシーラはメグの孫だった。いまはそう、妹といったところ。姉の子供としたらシー ラは叔母さんということになるのだろう。なんだか心がぽっとあたたかくなってきた。家 族が増えるのはうれしい。 「名前は決まった?」うしろから深く澄んだ声がする。 「そっと近づくのはやめてよね。心臓に悪いから」シーラはうしろを振り向きもせずに たしなめた。 「近づいたんじゃない。現れたんだ。君がここにいると聞いたんでね。目の前にいきな り現れたほうがよかったかな?」そう言いながらシーラの横に座る。 幸せな気分だったので、シルベスターがああ言えばこう言うをやっても気にならなかっ た。「悲惨な結果だったそうね。レースは」 眉をあげるシルベスターを横目で見ながら一応なぐさめた。「女王が楽しそうに教えて くれたの。残念だったわね。長いあいだ不完全だったから練習不足だったのよ」 口の端をへの字に曲げながら不満そうにつぶやく。「まあ、足はだいぶん鈍っていたな。 それにみんなあのレースにかける情熱は半端なものではないからな」それから首をかしげ て楽しげにシーラを見た。「ところで答えを聞いてない。名前は決まった?」 「ええ、とっくに決まっているの。ホレイショーの涙を見たときに思いついたの。ブリ リアント。とてもちっちゃくて、かわいくて、輝いていた」 「ブリリン。悪くないね」 「悪くないですって! とても素晴らしいとかぴったりだとかぐらい言ったらどうなの、 まったく。素直でない口は素直でない形に曲がっていくのよ」 シルベスターは盛大に眉をあげる。その意味は言わなくてもわかる。確かにシーラにも 当てはまる。 「まあ、いいわ」ちょっとばつが悪くなったシーラは立ち上がってお尻をはたいた。 「とにかくさっそくメグとホレイショーに伝えなくっちゃ。これからまたすぐ女王のとこ ろに戻らなくてはいけないの。後片付けに戻ってこいって。あの人の人使いの荒さは天下 一品。これが終わったら是が非でも休暇をもらわなくては。ブリリアントにもっと会いた いしたまには休養しないと……いくらわたしが若いといっても疲労は肌に悪いし……」最 後はぶつぶつと独り言のようになる。「ブリリンの顔を見たら戻るから迎えに来てちょう だい」いつしか自分の口調が女王のようになっているのにちょっと赤面する。 「承知いたしました」シルベスターは腰を折ってお辞儀する。 笑いながらよしてよと手を振って別れようとするシーラをシルベスターは呼び止めた。 「僕が優勝したら何を願おうと思っていたか、聞きたくない?」不可解な表情をしている。 「なんだったの?」シーラは立ち止まった。 「人間になろうと思ったんだ」 「……。嘘でしょう!」 シルベスターは意味ありげな笑いを残して消えた。 シーラが新しい赤ん坊にブリリアントという名前を授け、あらためてみんなで抱き合っ て喜びあった。村長と奥さんもお祝いに駆けつけてくれたが大役のあとなので疲れた顔を していた。 シーラはふたりの家の窓から牧場を眺める。新しく家を建てる余地はたくさんある。ふ ふん、いいかも。 迎えに来たシルベスターにつかまるとき、思わず赤面してしまった。いままでは平気だ ったのに。そのようすを流れ星が楽しんでいるのが伝わってきてまた腹立たしい。やれや れ、いままでひねくれていた性格は急に素直にはなれない。 「来年まで気は変わらない?」シーラはシルベスターの顔を見る勇気がない。 「たぶん。でもまずは勝たなくてはね」シルベスターの声は笑っている。 「たとえ勝ってもいちばんきれいな流れ星がなくなるのを女王が簡単に許すわけがない 。きっと大変なことが起こるわね」シーラはため息をつきながら言う。 「女王に文句を言わせない」シルベスターは断言した。 その頃、なかなか戻らないシーラにぶつくさ文句を言いながら、ひとり後片付けをして いた女王は突然襲われた悪寒に震え、大きなくしゃみをした。 TOP BACK HOME Chap.22